第1話 (1)

 「神」
 「巫女」
 「障害」
 そして「龍」……

 我は問う。誰がこれらの秘された古の言葉の秘密を説くことが出来よう。
 おそらくは、できまい。もし、まさかとはおもうが、それが可能だといわれる方がおられるとしたら、あなたは間違いなく神である。
 わかるはずがないのだ、人には。
 だって俺が今、新聞からテキトーにチョイスしただけだもん。
 古っつっても、今朝のことだしー。
 何の関係もない語群でも、謎掛けされるとなんとなく神秘的に見えてくるのだから、まったく、不思議なものだ。

 「金日正」
 「紙一重」
 「ウサギ小屋ありがとう」
 そして「カメラ目線」……

なんて語を羅列したところで、これは神秘的でも暗示的でもないが。
 しかし、真実が一見してそれとわかる姿をしているとは限らない。
 まったく何の関係もないように見える上の四語こそ実は、今回言及すべき「天使」「神」そして「聖霊信仰」といったヨーロッパ的精神における問題を論ずる際に、欠かすことの出来ぬキーワードなのである。
 もちろん、嘘である。


真・女神転生 33/5 激闘篇PART 2000
〜珍曲〜
writtn by ダンチ

福音その一:品川天使と機関銃


 
 剣を下げた青年の口から放たれた言葉に、御使いはしばし語るべき言葉を失ったらしく、首から下げたロザリオを玩びながら首を捻る行為を繰り返し、信じられぬというように足を二三度踏み鳴らし、黙祷し、祈りをささげ、(恐らくは無意識に)歯軋りをしてからようやく彼を直視した。
「……ではあなたは、神のご意志に従う気はない、と。そう言うのか。」
「くどい。」
聖堂に木霊した青年の返答は明瞭かつ不躾だった。
 天使ハニエル。
 この混乱の世を真の法によって治める唯一絶対の神の意志に従って、メシア教総本山・品川大聖堂に降臨した天使であり、この世の終末に罪深き人へ試練をもたらすべくラップを吹く七人の天使に名を連ねることもある。
 そのハニエルの申し出を、この人間は受け入れぬというのだ。
 真の救世主となるべき人間だった。
 人々を導き、千年王国を築く人間だった。
 そして、もっとも神に近づくはずの人間だった。
 しかし。しかし。しかし………………
 今、天使は救世主となるべき者が渾沌の悪しき魅惑にとり憑かれたのを悟った。
 深い悲しみが砂地に染みる水のように、静かに、静かに、心臓の裏側から小指の先にまで広がってゆく。
 ハニエルは哀れみの表情を浮かべ重く瞼を閉じて、彼に神の威光を伝えきれなかった己の罪を懺悔し、厳かに祈りの言葉をささげるとゆっくりと目を開いて
「……図に乗るな、人間が!」
激怒した。
 ハニエルは羽ばたいた。
 風を具して飛んだ御使いが、声なき声で雷の真の名を呼ぶ。

 Maha-ZIONGA

 その怒りに呼応するが如く轟音が轟き、青白い光が空を裂く。
 鼓膜が破れるような轟音を伴い落ちた雷が、青年を直撃した。
 当然だが……常人ならば即死する。
 だが、そしてこれもまた当然なのだが、青年は常人と呼ばれるには余りに強大な力を秘めているのだ。
 電撃に身を焼かれて彼は若干顔をゆがめたが、それがどうだというのだ。
「神の使いがいかほどのものか、見極めてやるさな。」
 戦いに魅入られたベルセルクの笑みを浮かべ、剣を構えると跳躍した。
 瞬間、青年は鳥になる。
「な……」
ハニエルは絶句した。青年の体が己の頭上を超えて跳んだのだ。
(人間ごときに上を取られるなど……)
「あってはならん!」
人に天を奪われて、天使は咆哮した。青年が剣を振りかざし、凄まじい加速をつけて下降する。
「死ねよ!」
「浅はかぁ!」
空での利は明らかに翼を持つ者にある。全体重を乗せた渾身の斬撃の合間をするりと抜け、無防備な背中にタックルを食らわせた。
 中空で体勢を崩され、ボディコントロールを取ろうとするが間に合わない。
 真横に吹き飛んだ体は、弟子に裏切られた聖者の最後を描いたステンドグラスにぶち当たった。悲鳴を上げて壊れたグラスの破片にまみれて落ちて行く。
 このまま落下すれば頚骨を負ってあの偽救世主は確実に死ぬだろうが、念には念を入れる。再び雷を呼んで青年を打った。
「そのまま地獄へおちるがいい!」
 品川大聖堂のフロアは大理石だ。翼を持たない人間に激突を回避する術はない。
 ぶすぶすと煙をあげて落下して行くその姿に、ハニエルは勝利を確信した。
 故に見落としていたのだ。
 青年がハンドヘルドコンピューターに手を伸ばしているのを。
 頚骨が粉砕されるまであと一メートル、エンターキーを押す。
 彼が落ちて行く先の床へ魔方陣が出現し、一瞬光り輝いた。
 次の瞬間、そこにとぐろを巻いて巨大な蛇が姿をあらわす。
 蛇は一声なき上昇すると、あと三センチ、召喚士を寸での所で死の淵から掬い上げた。
 舌打ちするハニエルに大蛇が牙をむく。
 「ヴリトラ……老いぼれた邪龍ごときが!」
 紙一重で身をよじった。
 一寸隣りを龍の巨体が瀑布のごとく下降して行く。
 初撃を外してヴリトラは苛立ったようにその身をうねらせ、尾を祭壇の十字架に叩きつけて破壊した。
 衝撃で中ほどでへし折れ、弾け跳んで来た十字架をハニエルは無造作に掴み、ヴリトラ向かって投げた。
 ヴリトラはそれを一噛みで粉々に砕き、とぐろを巻いて鎌首をもたげた。目を炯炯と光らせ
「……大口を叩きおるわ。蝿が。」
「ふん。」
忌々しげに見下すハニエルを囲んで魔方陣がいくつも光を放ち、次々と青年に召喚された悪魔たちが姿を表わす。
 天魔アグニ
 鬼神ゾウチョウテン
 妖精クーフー・リン
 天使ソロネ
 (天使……だと?)
 はっとしてハニエルはヴリトラの上に立つ青年に視線を向けた。
「ふ……なるほど、な。そうか、そうきたか、そうなのか人間は!」
「さあて、本番といくか?」
 視線が交錯する。
 ハニエルは、爆笑した。
「……いつまでも思いあがっていられると思うな!」
 怖気だ。
 ハニエルは、恐怖を、この人間に対して抱いた。
 目の前の人間が追っているものが、ハニエルには理解できないのだ。
 この混乱の時代、人は皆、救いを求めている。ロウとカオスに二分して争いを繰り返しているが、求めているものは同じである。
 だからノウハウさえ知っていれば、人間の立場を鞍替えさせるのは以外に簡単だったりする。
 ロウならば神の下にあるふさわしい人間であるのは当然だが、しかし、カオスのイデオロギーを持つ人間も、立ち位置が明瞭であるためにニュートラルの有象無象よりは組みやすい相手ではある。そして、ニュートラルもまた、彼らに神を信ずる支点、即ち神という存在の根拠さえ用意してやれば、容易にロウに傾く。
 安寧と自由を求める意志、いわば精神の方向性に違いはないのだ。ロウとカオスは人間にとって、単に方法論の相違に過ぎない。
 そのハニエルの人間論から目の前の人間は完全に外れていた。
 カオスとともに渾沌に身を任せ、バガボンドを気取ってニュートラルに混じり、秩序を語りロウを懐柔する。
Law、Neutral、Chaosどれもが、目の前の青年にとっては仮定に過ぎない。全てが偽りなのだ。

 では、この男にとって真理とは何なのだ。

 あらゆる真理を偽りのカテゴリーに押し退けて、この男はどこへ行く気なのか。
 「愚か……愚か者め……」呟いてみたが、もうハニエルは青年を単なる愚昧の徒と見ることは出来なくなっている。むしろ恐ろしい。
 この男はロウ、ニュートラル、カオス、全てにとって危険な破壊者だ。
「かぁぁぁぁ!」
気合を放ってハニエルは渾身の力をこめて羽ばたいた。
「あなただけは生かしておくわけにはいかない!」
「そうほざいてくれるか!」
青年もまた剣を手に、目を血走らせた神の僕に向かって飛び出した。
 そして、生命と生命が激突し、火花を散らし、
 ……と思われたが。
 マジメな緊張感ってものは、ちょっとした契機一つで結構簡単にぶっこわされてしまうものである。
 「ちょっと待ったぁぁぁ!」
 たとえば、何の脈絡もなく決戦の場に立ち入って来た、僧服をまとった物腰やわらかな一青年。
「な……!今までどこにいた、メシアよ!早々にこの偽救世主を血祭りに上げるのだ!」
「ヨ、ヨシオ!?」
 そう、その青年が放つ、一発の銃声……いやいや、
「フツオもハニエル様も戦ってはなりません!」
ズダダダダダダ!
「わっわっわっ、愚か者、私を撃ってどうす……わっわっわわわ!」
「おお……よくやった、ヨシオ!やっぱりメシア教のお山の大将になっても、俺達の友情パワーは……って俺に銃口を向けるなぁぁ!」
ズダダダダダダ!
「戦いをやめなさぁぁい!」
「ぎゃ〜!」
と、このようなシルヴェスター=スタローン張りの、男気あふれる機関銃掃射によって。
 とにかく、いきなり現われたロウヒーローことヨシオの機関銃が獣の如く吼えまくり、十字架だろうがパイプオルガンだろうがお構いなく破壊して行くのである。
 なんの脈絡もなく訪れた不条理な天災(?)に、品川大聖堂はさながら野良猫の襲撃を受けた二十日鼠の巣穴のごとし。銃弾の嵐の中をぎゃーぎゃーと騒ぎながらただただ、逃げ回る、逃げ回る。敵も味方もない。
「ぎゃわわわわ!ヨシオさん、俺っすよ、クーフー・リンっすよ!忘れたわけじゃねえ……ぎゃあああ!」(DYING)
「ああ!クーフー・リン殿!ちょっと待ってえなヨシオはん、一体ど〜ゆ〜了見で、いでででで!」(DYING)
「ゾウチョウテン!」
と、こうして無駄話をする間に1人、また1人と仲魔達は倒れてゆく……でも銃弾の勢いはとどまる所を知らない。みるみる間に瓦礫の山と化してゆく品川大聖堂。
 半泣きになっているのは、彼の天の使いハニエルである。なにしろ、今まで行方不明だったメシアが帰ってきたと思ったら、大砲のようなばかでっかい機関銃で長年掛けて彼が築いた清浄な空間を、ガンガン壊していくのだ。ま、泣くわな。
「ひいいいいいん、私の大聖堂がああああ!」
「泣きたいのはこっちだっての!お前、ヨシオにどんなロボトミー手術を施したんだ!?こんなのヨシオじゃないぞ!」
「戦いはぁ……やめなさぁぁぁい!」
と、叫びつつ、乱射に継ぐ乱射。
「ぎゃ〜〜!」

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